明治26年に商業登記制度が発足してから114年が，そして，会社法が施行
されてから1年が経とうとしています。
私は，平成15年4月から平成19年3月までの4年間，法務省民事局商事課
に勤務し，商業・法人登記実務に接する機会を得ましたが，その間，具体的
な事案に即して妥当な結論を得るべく積み重ねられた諸先輩の考え方を学び
つつも，近時の法改正に伴い，いかなる点が変更されたのか，判断に迷う場
面も少なくありませんでした。
本書は，このような観点から，次の点に留意するよう努めています。
① 私の理解する現時点の登記実務の在り方を正確に記述すること。
② 会社法の下でも，従前の取扱いをなお参考にすべき事案が多＜見られ
るため，その理由・考え方に関する文献を広く紹介すること。
③ 会社法の解釈につき，条文の形式的な規定振りのみを根拠とせず，可
能な限り，結論を尊く実質的な理由を検討すること。
④ 先般の著作権の存続期間延長に係る判決等を教訓に，現在示されてい
る見解に解釈の危うさが残る箇所については，その旨及び複数の解釈の
うち手堅いものを明らかにして，実務家の参考に供すること。
商事課を離れるに当たり振り返ってみますと，私が，今まで商法・会社
法・商業登記と向き合ってこられたのも，原田晃治法務省大臣官房審議官
（当時）の熱意と御指導によるものであり，心から感謝の念にたえません。
本書は，遅ればせながら，同審議官に対する私のレポートのようなものです
が，商業登記実務の円滑な運用に，何らかのお役に立てば幸いです。
最後に，本書の刊行に際しては，株式会社商事法務の菅野安司氏及び小野
寺英俊氏に多大な御配慮をいただきました。厚く御礼を申し上げます。
平成19年4月
松 井 信 憲
